ディケンズと好きの片隅

英国人作家チャールズ・ディケンズ推し。本、旅行記、演劇、美術、小ネタなど好きなことをつづります。

恐ろしくも品のよい幽霊話/「オンジエ通りの怪」シェリダン・レ・ファニュ

お約束を果たしましたので、皆さんには「お休みなさい、よい夢を」と申し上げることにいたしましょう。

 

「オンジエ通りの怪」シェリダン・レ・ファニュ

 『ヴィクトリア朝幽霊物語』松岡光治編訳 アティーナ・プレス

 

『ヴィクトリア朝幽霊物語』から短編を一作紹介。

こちらは残念ながら絶版、しかし、あとがき含む全文がPDFで無料公開となっている。

松岡光治編訳『ヴィクトリア朝幽霊物語(短篇集)』(アティーナ・プレス、文庫版、2013年3月)

 

これまでの記事はこちら。

イギリスの幽霊物語が好きだ/「約束を守った花婿」イーディス・ネズビット『ヴィクトリア朝幽霊物語』(アティーナ・プレス) - ディケンズと好きの片隅

恐怖しない語り手/「殺人裁判」チャールズ・ディケンズ - ディケンズと好きの片隅

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六作目はシェリダン・レ・ファニュ(1814-1873)による「オンジエ通りの怪」。

初出は『ダブリン・ユニヴァーシティ・マガジン』の1853年12月号。

 『カーミラ』で有名なアイルランドの作家レ・ファニュの幽霊物語。

カーミラはFGOでもキャラクター化されているので、最近ではそちらを思い浮かべる人も多いかもしれない。

 

作品の内容にふれています。

 

若くして亡くなった従兄のトム・ラドロウと語り手(ディック)は、大学在学中に、オンジエ通りにあるトムの父親所有の空き家で共同生活を始める。それは非常に古い屋敷であった。しばらくして、ディックは悪夢に悩まされるようになる。そして、ある夜、強欲そうな老人の肖像画に凝視される夢を見たディックは、トムにその悩みを打ち明ける。強壮剤を飲むことで恐怖を追い払うことにしたディックだったが、別の夜、今度はトムが恐怖に震えた状態でディックの部屋に飛び込んでくる・・・

 

作品を読んで、まずブラム・ストーカーの短編「判事の家」に似ていることに驚いた。

もちろんレ・ファニュが先に書いている。

作品の雰囲気や結末こそ違えど、殺人を試みる老判事の幽霊、古屋敷、肖像画、ネズミなど共通点が多い。共通の元ネタ的な何かがあるのだろうか。お屋敷幽霊物のパターンの一つでたまたま似たのだろうか。ストーカーがレ・ファニュに影響を受けたのか。そして老判事=ネズミというイメージがあるのだろうか。そうでない限りは偶然の一致とは思えないが…。

 

作品自体は、読んでいて恐怖を掻き立てられる正統派の幽霊物語なのだが、恐怖とともにコミカルな要素も多い。恐怖の中に上品なユーモアが巧みに織り交ぜられている。

個性的なのは語り手である。幽霊物語の前後の語り(結末部分は特にメタ的)が、ユーモラスで話に引き込まれる作りになっている。このひょうひょうとした語りと品のあるユーモアはしかし恐怖に水を差すことなく、絶妙なバランスで読者に提示されている。

読後感の良さもレ・ファニュの特徴だろうか。

 

冒頭の引用でこの物語は幕を閉じるが、貴族のお屋敷で恐ろしくも品のよい幽霊話を聞くような非日常な体験をしたい人におすすめの幽霊物語。

 

レ・ファニュはお気に入りのヴィクトリア朝作家の一人なので、今後も感想をつづりながら少しずつ紹介していきたいです。

(ディックとトムがどうなったのか気になる方は、PDFで作品が無料公開されているので、そちらをお読みください)